ニッケルブログ

強く、硬くて丈夫
ニッケル含有合金鋼は多様な用途に対応

2020年1月31日

ニッケル生産のほとんどはステンレス鋼向けです。しかしながら8%の割合は特殊で重要な用途に必要な特性を出すため、合金鋼の生産に使われています。

合金鋼には幅広い種類の鋼ベースの素材が含まれています。ニッケルの含有の割合は、ある種の合金鋼での極めて低い0.3%以下から、マルエージング鋼の20%までの幅があります。各種の合金は通常の炭素鋼と比べると、より高い強度、硬度、耐摩耗性または強靭性のいくつかの組み合わせを考慮して製造されます。これらは通常、動力の伝達や金属の形成あるいは切削を行う装置に使われ、また低温度で強靭性が低下する炭素鋼に代わって使用されます。単純化すると、合金鋼は特定の用途毎に特性を持ついくつかの種類に分類されます。産業界において、ニッケル合金鋼は工具や機械を製造する上で使用される合金鋼であり、製造上欠かせないものです。

主要ニッケル含有合金鋼の典型的な化学組成

鋼種 品種 炭素 ニッケル クロム その他 用途
硬化性低合金鋼 AISI 4340
(G43400)
0.4 1.8 0.8 bal Mo トランスミッションギア、シャフト、航空機着陸装置
AISI 4320H
(H43200)
0.2 1.8 0.5 bal Mo 耐摩耗のため表面硬化されているが強靭な核を持つギア、ピニオン歯車
AR450 0.26 0.70 1.0 bal Mo 物を滑らせて移動させるシュート装置、ダンプ車の荷台部分、暖炉の火床、防弾用の耐摩耗鋼板
工具鋼
空気焼き入れ
A9 (T30109) 0.5 1.5 5.0 bal Mo,V 引き抜きおよび成型ダイス、剪断刃
工具鋼
プラスチック成型
P6 (T51606) 0.1 3.5 1.5 bal 亜鉛ダイキャストおよびプラスチック射出成型ダイス
高強度低合金鋼
「対候性鋼」
A588 Gr C
(K11538)
0.1 0.35 0.5 bal Cr,Cu,V 通常の炭素鋼に比べ重量当たりの強度が高く、大気耐食性が強いため橋梁建設に使用される
ニッケル鋼 9% Nickel steel
(K81340)
0.13 9.0 - bal LNG 貯蔵など低温下用
マルエージング鋼 Maraging 300
(K93120)
0.03 18.5 - bal Co,Mo,Al,Ti ロケットモータのクランク室、機体、伝導軸、航空機着陸装置、射出成形金型、ダイス

硬化性低合金鋼

硬化性低合金鋼は通常の炭素鋼に比べて優れた機械的特性を持つ鉄鋼素材の分類に属します。この特性はニッケル、クロム、モリブデンといった添加合金成分を加え、その後焼き入れ(急速冷却)および焼き戻しをすることで得られます。これらの添加成分は焼き入れ前にオーステナイト中に溶解されると硬化性(焼き入れ性)を高めます。ニッケルはクロムおよびモリブデンの硬化効果を補い、焼き入れおよび焼き戻しの熱処理により得られる硬化マルテンサイト結晶構造に強靭性をもたらすために重要です。

AISI 4340 鋼の焼きなまし、焼き入れおよび焼き戻し状態での典型的な機械的数値とAISI 1045 炭素鋼との比較

径75MM 丸棒 降伏強度
メガパスカル
(キロポンド/平方インチ)
抗張力
メガパスカル
(キロポンド/平方インチ)
伸長強度%
AISI 4340
焼きなまし
588 (86) 752 (110) 21
AISI 4340
ASTM A434
クラス BD
847 (124) 963 (141) 18
AISI 1045
焼きならし
410 (60) 629 (92) 22

工具鋼

工具鋼とは超硬性、耐摩耗性を持つ様々な鋼を意味し、用途としてはダイス(プレス加工または押し出し加工)、切削あるいは剪断、鋳型製造、またはハンマー(個人用または工業用)などの打撃系工具などを意味します。この熱処理は硬化性低合金鋼と同様です。空気硬化工具鋼は急速水冷却焼き入れにより起こるねじれを減らし、耐摩耗性と強靭性を程よいバランスで有しています。

低炭素鋼であるプラスチック成型用工具鋼は低炭素鋼を浸炭硬化させた後、更に表面を超硬させる焼き入れを行うもので射出成型鋳型および鋳物用のダイキャストに最適です。

高強度低合金鋼(対候性鋼)

この鋼の細かな結晶粒組織により通常の炭素鋼に比べ強度が増します。この細かな結晶粒は変態温度を変えることでオーステナイトからフェライトおよびパーライトへの変態が空冷過程において、より低温で起きるようになります。高強度低合金鋼は概して低い炭素レベルでは、シリコン、銅、ニッケルおよびリンなどの成分はきめ細かいパーライト構造に効果的です。

クロム、銅ならびにニッケルを添加することにより鋼本体に付着する安定したさび層が出来ますが、これは通常の構造用鋼に生じるさび層に比べはるかに多孔性が低いもので、その結果、耐腐食性がありコーテイングなしでの使用を可能にしています。

下記の表はASTM A36構造用炭素鋼とA588 Cグレード構造用高強度低合金鋼との機械的特性の違いを表したものです。

ASTM A36炭素構造用鋼とASTM A588 Cグレード高強度低合金構造用鋼との機械的特性の違い

品種 降伏強度
最小メガパスカル
(キロポンド/平方インチ)
抗張力
最小メガパスカル
(キロポンド/平方インチ)
最小伸長強度%
ASTM A36 250 (36) 400 (58) 23
ASTM A588 グレードC 345 (50) 485 (70) 21

ニッケル鋼

通常通常3%以上の高いニッケルを含むフェライト鋼は0℃から-196℃の温度に晒される用途に広く使用されます。これら用途の例としては液化炭化水素ガス用貯蔵タンクならびに寒冷地域仕様の構造物や機械類です。この鋼は衝撃転移温度を低下させる効果のあるニッケル成分を添加し、低温での強靭性を増しています。

炭素鋼ならびに大部分の低合金鋼は温度が24℃(75℉)以下になると強度および硬さは増しますが、引張延性および強靭性は低下します。ニッケルは図1のシャルピー衝撃試験結果から分かるように低温での強靭性を増加させます。

1952 年に液体酸素格納容器に初めて使用された 9 % ニッケル鋼はその後LNGタンクの内殻に主に使用されてきました。これはオーステナイト系ステンレス鋼の代わりに、-196 ℃までの超低温での強さと信頼性の高い破壊靭性により選ばれています。

マルエージング鋼

マルエージング鋼は低炭素の鉄ニッケル合金で18%までのニッケルとさらにコバルト、モリブデン、チタンその他成分と混合されています。この合金はマルテンサイトに焼き入れされ、その後480~500℃での析出硬化処理が施されNi3MoやNi3Tiなどの金属間化合物の析出が促進されます。

これらの鋼は高度の破壊靭性があり、その優れた衝撃疲労強度は電気機械部品など繰り返される衝撃負荷に有効です。比較的低温の熱処理温度により、硬化性低合金鋼の焼き入れに比べゆがみが遥かに少ないため長尺の薄い部品に適しています。これらの合金鉄に使用されるニッケル量はステンレス鋼生産物に比べると大きくありませんが、合金鉄の種類は広範囲であり産業界にとり重要な名脇役です。

技術者ならびに仕様作成者による用途別の最適な素材選定をサポートするため、ニッケル協会は無料の技術指導サービスを提供しています。豊富な技術手引書をご覧ください。

マルエージング鋼はニッケル18%を含有し、航空機などの着陸装置に必要な衝撃疲労強度を有しています


マルエージング鋼の優れた特性をまとめると下記のようになります。

  • 常温での超強度
  • 簡単な熱処理の結果として得られるねじれの極小化
  • 同程度の強度の焼き入れ焼き戻し鋼に比べ優れた破壊靭性
  • 加工が容易かつ溶接性の良さ

図:焼きならし焼き戻し低炭素鋼2分の1インチ鋼板のニッケルの衝撃強度に及ぼす影響
(図左縦)シャルピー衝撃試験(鍵穴形の切り欠き入り試験片)
(図右縦)ジュール
(図下)温度華氏(摂氏)

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