ニッケルブログ

中国のエネルギー政策の課題:ニッケルの将来的な好機につながる最新動向

2020年6月5日

中国の新エネルギー法は国内のエネルギー構造を最適化し、非化石エネルギーの利用を後押しします。中国の政策目標と合致するニッケルは、よりクリーンなエネルギーに支えられる未来の世界において極めて重要な役割を果たすことになるでしょう。

2020年4月10日、中国の国家能源局(NEA)は意見公募のために新エネルギー法の草稿を公表しました。世界的なエネルギー開発・消費動向に足並みをそろえ、同法案では、環境問題に取り組み、持続可能な開発を達成するという目的で従来型化石エネルギーのクリーンな開発と非化石エネルギーの開発加速が強調されています。また、エネルギー構造の最適化が体系的かつ詳細に提示されており、非化石エネルギーの割合を増やすことを義務付ける規定もあります。

中国が包括的エネルギー法に至るまでの長い道のり

中国がエネルギー部門全体を管轄する燃料産業部を設置したのは1950年のことでした。その5年後、同部は石炭、石油・ガス、電気の3部門に分割されています。1970年から1975年の間に中華人民共和国国務院に設置されていたのは統括された燃料化学産業部でした。

1988年になって初の能源部が組織されますが、1993年に再分割され、特定の燃料を個々の部が管轄するようになりました。その後、1998年に政府機構改革が実施され、石炭、石油、電気、化学産業を管轄していた部すべてが局に格下げされています。この変革の結果、それぞれが異なる規則を制定するようになり、エネルギー部門における規制の一貫性が損なわれ、エネルギー関連の法的枠組みに影響が及ぶことになったのです。このように、中国のエネルギーに関する法的枠組みにおいては、長年にわたり、石炭、石油、ガス、電気、パイプライン、再生エネルギーの各分野について個別に法律が整備されてきました。包括的なエネルギー法が大局から欠けている状態は今なお続いています。(図1:中国のエネルギー関連法の枠組み)

2000年代に入り、中国では国内エネルギー部門の発展と国際的なエネルギー市況を鑑み、エネルギーに関する統括省庁の新設と法律の一元化が必至となります。2005年、国家エネルギー部門指導グループ事務局が中国中央政府によって設立され、その後継となったのが2008年に設立された国家能源局(NEA)でした。この政府機関の最優先課題はエネルギー法の草案作成で、2007年、2017年、2020年に協議向けの草案を3本作成してきました。2020年の草案は意見公募のために4月初旬に公表され、より良いエネルギー法を目指して関係各者が活発な議論に参加しています。

図1:中国のエネルギー関連法の枠組み

中国エネルギー構造の最適化

中国の新エネルギー法の目的は、エネルギー部門が直面する共通課題に対処すべく、基本的な規則を整備することです。また、中国にとって最優先課題である環境保護・向上の達成も目指しています。

歴史的に、中国のエネルギーミックスを支配してきたのは石炭や石油を始めとする化石燃料でした。中国の統治制度において、これらの産業を管轄する政府機関が強大な権限を持ち、石炭、石油、天然ガス部門を規制する法律が長期にわたって手つかずにされてきた理由がうかがえます。中国が抱える環境問題の一部は、化石エネルギーがエネルギーミックスで支配的な地位を占めてきたことに起因するものです。ガソリン自動車の排気など、一部は世界共通の課題でしたが、過度の石炭依存により生じた深刻な大気汚染など、中国特有の課題もあります。

新エネルギー法案は、エネルギーの生産と消費に起因する環境課題に対して最も有効な政府の対応となるでしょう。同エネルギー法(2020年草案)によると、中国のエネルギー構造はエネルギー供給とエネルギー消費の最適化に照準を合わせることになります。供給面では、再生可能エネルギーの開発、より安全で効率的な原子力発電、非化石エネルギーの割合増、クリーンで低炭素な化石エネルギーの開発促進が優先課題として掲げられました。一方、消費面では、環境を保護するためにエネルギー効率、省エネ、排出量削減に関する要件が定められています。

エネルギー法は、増加の一途をたどる新エネルギー車の適用、承認された原子力発電所の再開、水力発電所の建設加速化を始めとする中国エネルギー部門における新たな展開も反映するものです。国務院とNEAによると、2020年末までに非化石エネルギーの割合が総エネルギー消費の15%を占めることを目標とし(図2:2020年までの中国のエネルギー消費割合を参照)、2030年までには20%にまで増加させる予定だとしています。

図2:2020年までの中国のエネルギー消費割合

中国エネルギー部門の発展を可能にするニッケル

やがて制定される中国エネルギー法には、総体的なエネルギー戦略、主要な開発目標、過去からの最重要イニシアチブが包含されます。

  • 総体的なエネルギー戦略とは、各種5カ年計画の組合せを通して、政策と行政措置を支持しつつ、持続可能な開発とエネルギーの安全保障を確保するものです。経済計画、環境保護、金融、エネルギー効率などを管轄する各政府機関があらゆる政策ツールの導入を図ることとなり、ニッケル業界を含む数々の業界が政府の動きに合わせ、知見を提供する必要が生じることでしょう。
  • 同エネルギー法では、行政はあらゆるレベルにおいてエネルギー部門の質の向上を達成するとした主要命令が強調されています。第一に、安定した、信頼性の高い、効率的なエネルギー供給システムを確保すべく、エネルギー基盤の建設を支援すること。第二に、主要下流産業における省エネを促進すること。第三に、気候変動に取り組み、汚染物質と温室効果ガスの排出を制御するためにエネルギー部門の能力を向上させることです。
  • 同エネルギー法は、前進への道としてエネルギー構造の最適化についても特定かつ詳述しています。ここで強調されているのは、再生可能エネルギーの優先的な開発、分散型エネルギーシステムの開発、化石エネルギーの代替です。これを進める手法の一例として、現在、中華人民共和国国家発展改革委員会(NDRC)は、使用済みEVバッテリーを電気通信施設のエネルギー貯蔵システムに応用するモデルプロジェクトを実施しています。
  • 同エネルギー法では、従来型エネルギーをよりクリーンにし、低炭素排出に移行する必要性が強化されました。また、拘束力のある成果指標を採用することにより、原子力と再生可能エネルギーの供給と消費を加速させる緊急の必要性も強調されています。具体的には、風力、太陽光、水力、バイオマス、潮力、地熱といった再生可能エネルギーについては、これらの電力の一定割合を送電網が買い取らなくてはならないとする法的責任が定められている点です。さらに、政府に対しては、再生可能エネルギーの開発を支援するための財政、金融、価格政策を提供することが義務づけています。つまり、新エネルギー法では、非化石エネルギーの成長ロードマップが合法化されているのです。(図3:中国の非化石エネルギー計画表を参照。出典:NDRC、エネルギー研究所)

図3:中国の非化石エネルギー計画表

中国の政策目標と合致するニッケルは、よりクリーンなエネルギーに支えられる未来の世界において極めて重要な役割を果たすことになるでしょう

ニッケルは、ステンレス鋼、蓄電池の正極材料、その他特殊合金に使用されることで、新中国エネルギー法に定められている政策目標を支援する重要な材料になると言えるでしょう。

低炭素エネルギー供給には、極端な温度(例:地熱、集光型太陽熱発電)や浸食・腐食環境(例:洋上集合型風力発電所での海水、潮力、波力発電)など、要求度の高い苛酷な稼働条件に耐えられる材料が必須です。ニッケルは、その卓越した物理的、化学的特性により、ステンレス鋼の耐食性や材料の耐久性を高め、耐用年数を延ばし、効率を高めることから、最適な材料だと言えます。中国の政策目標と合致するニッケルは、よりクリーンなエネルギーに支えられる未来の世界において極めて重要な役割を果たすことになるでしょう。

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