ニッケルブログ

電気自動車用の車載電池においてニッケルは持続可能なのか?

2020年7月27日

端的に言えば、答えは 「Yes」 です。ニッケルは、採掘、製造から使用、耐用年数後に至るまでのバリューチェーン(価値連鎖)全体を通して持続可能な材料です。ただし、「バリューチェーンを通して、関係者全てがさらに力を入れて持続可能性の達成に責任を全うするようになれば」、という前提条件があります。それでは、詳しく説明してゆきましょう。

新型コロナウィルスの影響で、私たちは社会がこれまで直面してきた深刻で長期的な脅威と課題を忘れかけていないでしょうか。世界的な人口増加で、より多くの、そして質の良い食料、水、住まい、医療が要求され、さらなるモビリティ(移動性)も必須となってくる一方で、気候変動という課題により、温室効果ガス(GHG)排出の大幅な削減が求められてきました。世界中のGHG総排出量の約1/4を占めているのが輸送部門です。従って、GHG排出削減目標を達成すると同時に社会が求める輸送手段を提供する上で、「グリーン・モビリティ」(GHC排出量が少ない電気自動車など)は絶対に欠かせないものだと言えるでしょう。

2019年末、新欧州委員長の Ursula von der Leyen 氏は、運輸担当欧州委員である Adina Vălean 氏宛てのミッション・レターの中で賢明かつ持続可能なモビリティの重要性を強く主張しました。また、「道路、海上、航空輸送向けの持続可能な代替輸送燃料の導入を強化する」必要性についても強調しています。欧州委員会(EC)にとって個人向け交通手段の電化は最優先事項のひとつであり、その中核に位置するのが電気自動車なのです。コロナ禍にあっても、EU電池指令の改正は優先事項として維持されており、欧州当局の長期的思考が表われています。

EU電池指令改正で最も重要なのは、初めて電気自動車向けの新電池技術が取り入れられた点です。

欧州委員会は当初からバランスのとれた解決策を見いだそうと全力を注いできました。欧州バッテリー同盟が欧州域内における完全な電気自動車用の電池バリューチェーンの構築を目指す一方で、同委員会は、例えば欧州グリーンディール(欧州委員会が2019年に発表した気候変動対策で政策指針の6つの柱のひとつ。産業競争力を強化しながら、2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロを目指す)や欧州新循環型経済行動計画に概説されている内容など、他の公共政策目標を損なうことなく実現したいと考えているのです。EU電池指令の改正は、原料の生産から電池の製造と使用、さらには耐用年数後に至るまで電池バリューチェーンのあらゆる要素に目を向けています。同指令は、影響を受ける全政策イニシアチブ目標の調整を確保する上で重要な役割を果たすことになるでしょう。

電池はさまざまな原料に依存しています。コバルト、ニッケル、リチウム、マンガン、アルミニウムは電池内の陰極に使用される主要な素材である一方、陽極にはグラファイトが使用されます。世間では原料の環境、社会、経済的側面に厳しい目が向けられていることから、欧州委員会もこれらの観点を重視しています。新たな電池規制は、例えば電気自動車(EV)の電池に使用される原料が持続可能な方法で製造、使用、再利用されることを確保するものになるでしょう。そこでいくつかの疑問が浮かんできます。これらの原料は持続可能な方法で生産、加工、使用されているのでしょうか?持続可能性における課題点は?また新電池規制でこれの課題はどのように対処できるのでしょう?

それでは、これらの疑問点をニッケルという視点から見てみましょう。

1. ニッケルは責任ある方法で採掘、生産されているか?

主要なニッケル生産者は「責任ある調達」規約を順守し、自らの環境、健康、安全上の実績について報告しています。また、電池バリューチェーン内で協力関係が築かれているという点も大きな好材料です。例えばNornickel社とBASF社、Umicore社とBMW社あるいはEramet社、BASF社とSuez社などが挙げられます。このような企業間の協働によって、ニッケルの出処の担保、サプライチェーン全体とリサイクルを通した環境保護対策の実績に加え、作業員と地域社会への保護措置に向けられる厳しい目が確保されることになります。

2. 電池のカーボン・フットプリントに対するニッケルの寄与はどれくらい?

電池のカーボン・フットプリント(二酸化炭素排出量)と持続可能性は、白熱した議論を呼ぶテーマです。電池に含まれる金属は、電池の総カーボン・フットプリントに大きく寄与する因子と捉えられることが少なくありません。確かに、ニッケルを始めとする金属の生産に大量のエネルギーが消費されているのは事実ですし、最近の研究によると、電池の総フットプリントの15%を占めているのが原料に関するものでした。電池内の陰極にニッケル、マンガン、コバルトを使用している電池(NMC)において、ニッケルが占める電池カーボン・フットプリントの割合は7%です。ただ、過去と最近のライフサイクル・データを比較してみると、2007年以降、ニッケル産業はさらに9%の温室効果ガスの排出削減を実現しています。また、この温室効果ガスの排出を削減する取り組みは現在も続けられていますから、電池のカーボン・フットプリントにおけるニッケル由来の排出量は今後ますます低減するでしょう。

3. 使用中のニッケル含有EV電池技術の持続可能性はどれくらい?

ニッケルは高性能リチウムイオン電池の陰極に最適な材料です。他の材料よりも電圧が高く、2倍近くのエネルギー密度を有する高ニッケルリチウムイオン電池であれば、電気自動車の一回の充電による走行距離が伸びるだけでなく、軽量化も実現しています。また、単結晶ニッケル陰極の商品化によってサイクル寿命がさらに延び、駐車中の電気自動車を家庭用蓄電池として活用することも可能になりました。

4. リサイクル電池の持続可能性パフォーマンスは?

ニッケル、そしてコバルトを始めとするその他の金属は、経済的価値が高いことから、EV電池の回収とリサイクルの動機づけになります。事実、ニッケルとコバルトは最高のリサイクル効率で再生利用されています。リサイクルの課題がまだ解決されていない他の技術と比較すると、ニッケル含有電池は持続可能性という意味で明らかに優位なのです。

さらに、ニッケル含有EV電池技術には魅力的なセカンド・ライフもあります。耐用年数が長いということは、別の用途に再利用(リユース)できることを意味します。例えば、EVでの使用が耐用年数に達した後は再生可能エネルギー貯蔵用の蓄電池としての再利用が可能です。再利用とリサイクル(再生利用)は電池のライフサイクルのパフォーマンスにプラスの環境影響を及ぼします。従って、EUの新電池規制では電池の第二の活用も奨励すべきでしょう。

バリューチェーンを通して持続可能

結論として、冒頭の疑問に対する端的な答えは 「イエス」 なのです。ニッケルは、採掘、製造から使用、耐用年数後に至るまでのバリューチェーン(価値連鎖)全体を通して持続可能な材料です。ただし、ここまで説明してきた通り、「バリューチェーンを通して、関係者全てがさらに力を入れて持続可能性の達成に責任を全うするようになれば」、という前提条件付きなのです。

※ 本記事は2020年6月に Euractiveにて掲載されたものを転載しています。

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