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「ステンレス・オンライン・セミナー 2020」を開催しました

2020年11月27日

11月13日、ステンレス配管研究会主催、ステンレス協会ならびにニッケル協会協賛の「ステンレス・オンライン・セミナー 2020 ステンレスの上手な使い方-特性と事例」がZoom会議システムを使用して初めて開催されました。

同セミナーには金曜日の夕方にもかかわらず定員の100名を上回る応募があり、申込者の多くはステンレス関連企業にお勤めの方々や各都道府県所轄の工業技術センター等の技術研究者の方々でした。

当日は3名の専門家がオンライン画面に登場し、約2時間に及ぶ講演を行いました。講演内容もステンレス鋼の技術的基礎知識から建築設備配管や海水環境における防食対策事例など幅広い関連分野をカバーしています。また各講演の後に設けられました質疑応答の時間にも、Zoom会議システムのチャット機能を利用したテキストによる質問ではありましたが、様々な内容の質問が出され、非常に具体的なやり取りがなされました。時間の関係で全質問にお答えすることができなかったため、すべての質問内容と講演者からの回答は本開催記事の末尾に一問一答形式で掲載しております。日本はステンレス鋼の利点が広範に知られている比較的に成熟した市場ではありますが、ステンレス鋼をより深く知りたいという業界関係者の方々の熱意は、オンライン・セミナーへの出席者数や具体的な質問内容に現れています。

ステンレス配管研究会は近年、台湾・大連・珠海・上海など中華圏を中心とする海外諸都市においてステンレス鋼普及のための啓蒙セミナーを開催しておりますが、今年は新型コロナウィルスの影響のため初めてオンラインによる国内開催となりました。今後も国内外を問わず、ステンレス鋼の利点と便益を広く皆様にお伝えすべく活動して参ります。

開式挨拶(ステンレス配管研究会 遅沢会長) 右:総合司会(ニッケル協会東京事務所 江崎所長)
講演(1):及川 誠 氏(工学博士) 演題:ステンレス鋼とその特性
講演(2):山手 利博 氏(工学博士) 演題:建築設備配管系におけるステンレス鋼の腐食事例と対策
講演(3):宮坂 松甫 氏(工学博士) 演題:海水環境におけるステンレス鋼の腐食と適用例

質疑応答

<質問1>
耐食性の発現するメカニズムについて質問します。10.5%のCrで表面全体が覆われているのでしょうか?

ステンレスの表面は、Crそのもので覆われているわけではなく、Crの酸化物、水酸化物から成る不動態被膜で覆われています。この不動態被膜の存在により、ステンレス鋼は耐食性を有します。また、不動態被膜は自己修復機能をもつので、きずなどで破壊された場合にも再生されて、ステンレス鋼の耐食性は維持されることになります。

<質問2>
なぜオーステナイトは体心、フェライトは面心の構造となるのでしょうか?

fcc構造(面心立方構造)のγ鉄に他の元素が固溶したものをオーステナイトと呼び、 bcc構造(体心立方構造)のα鉄に他の元素を固溶したものをフェライトと呼びます。 機械的性質や変形挙動、また物理的性質には結晶構造が影響しますので、ステンレス鋼の特徴を理解するためには各組織の結晶構造を知っておくことも有効です。
(なお、いただきましたご質問では、オーステナイトは体心構造となっておりますが、これは面心構造であり、一方、フェライトは面心構造ではなく、体心構造であります。)

<質問3>
隙間腐食の対策として水道水以外の対策はありますか?(塩素濃度がいくつならばSUS304を使うなど、相性のよい組み合わせを知りたいです。)

①すきま腐食対策として環境対策と材質対策があります。環境対策として井水を水道水に切り替える案を提示したのは,説明した腐食事例で水道水が井水に比べて対ステンレス腐食性が軽減できる可能性があるためです(実際には両者の水質比較が必要です)。

②残留塩素濃度と材質の耐食性については温度や他の水質項目も含めて判断する必要があります。残留塩素を含む主な腐食要因をパラメータとした水質判定指標として「ステンレス協会建築用ステンレス配管マニュアル監修委員会:改訂版建築用ステンレス配管マニュアル,pp.202-213(2011)」などがあります。使用される温度・水質条件によってSUS304,SUS316の耐食性が比較されています。これらの指標などから環境に応じた材質選定をされるとよいと思います。

<質問4>
SUS304溶接部において微生物腐食が疑われる発錆があり、溶接部断面を検査したところ、配管内部まで溶接しておらず、隙間があることが判明しました。配管溶接の使用に裏波溶接の記載をしておりませんでした。微生物腐食が疑われる場合、裏波溶接は対策のひとつとなるでしょうか?材質の見直しが必要でしょうか?ダムを水源とする浄水場内配管です。

①一般的に使用水(管内水)に残留塩素が含まれる場合,微生物腐食の可能性は低いです。しかし例えばダムの水をそのまま引き込んでいる配管系(残留塩素を含まない)であれば微生物腐食の可能性は考えられます。殺菌剤が含まれないため微生物(ステンレス鋼の微生物腐食に関与するのは好気性菌といわれます)が繁殖しやすく,その代謝によってバイオフィルムが形成されバイオフィルム下で代謝物質である過酸化水素の酸化作用によってステンレスの電位が高くなるといわれます。電位の上昇によってすきま腐食電位あるいは孔食電位(孔食電位>すきま腐食電位)を超えるとすきま腐食や孔食を発生する機構(学説)などが考えられています。

②溶接部における裏波形成状態は溶接部組織健全性の判定指標にされています。

③溶接時の裏波ビードが適正に形成されない状況であれば溶接金属溶け込み不足による隙間の形成や表面酸化によるステンレス表層材質の耐食性劣化が予測されます。そのため微生物腐食などの影響も受けやすいと考えられます。しかし溶接が適正に行われた場合でも微生物腐食が発生する可能性は考えられます。

④適正な裏波ビードを形成させることはステンレス鋼として正常な材質(耐食性など)を確保するための材質側の微生物腐食対策になります。しかし前述したようにダム水や河川水のように殺菌されていない系統であれば微生物腐食の可能性は残ります。

⑤また,ダム水や河川水は有機物などの汚れも多く微生物が繁殖しやすいと考えられます。

⑥対策として材質のグレードアップ(高クロム材質など)と環境処理があります。後者にはバイオサイド(殺菌剤)による殺菌と濾過による水の清澄化などがあります。

<質問5>
微生物による腐食環境を実験室で模擬は可能でしょうか?定荷重試験のような長期間にわたる試験は可能でしょうか?

ステンレス鋼の腐食(すきま腐食および孔食)に対する微生物の影響として、①電位の上昇による腐食”発生”の助長、②カソード反応の促進による腐食”速度”の加速があります。その原因は好気性微生物の代謝による過酸化水素の発生にあると言われています。現場の微生物の活動を実験室でそのまま再現または模擬するのは困難ですが、上記のような微生物による電気化学的影響を捉えた試験、例えば上記①の作用(微生物による電位上昇)を模擬し、試験片を高めの電位(微生物が活動する生海水中と同程度の電位)に設定してすきま腐食試験または孔食試験を行う方法(定電位試験)が採用されています。

応力の作用と微生物との関連については報告が無いので「定荷重試験」は該当しませんが、「長期間の試験」が可能であればやはり実海水中での腐食試験をお勧めします。実海水と言っても実験室に長期間汲み置いた海水では微生物の活動を再現し難いので、実際の海、あるいは海辺の施設でフレッシュな海水を循環できるような環境での試験が良いと思います。

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