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「ニッケル・オンライン・セミナー2020 ― ライフサイクル評価とニッケル」を開催しました

2020年12月2日

ニッケル協会東京事務所は11月25日(水)、「ニッケル・オンライン・セミナー2020 ― ライフサイクル評価とニッケル」と題してセミナーを開催いたしました。本年は新型コロナウィルスの影響により、従来の対面式ではなく、初のオンライン形式での開催となりましたが、当日は70名以上の方々にお申込みをいただき、様々な大学や研究機関の専門家をはじめ、ステンレス業界など産業界からも多数のご参加をいただきました。

総合司会:ニッケル協会 東京事務所
江崎 愼二 所長
ニッケル・オンライン・セミナーの様子

一人目の発表者は、国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 国際資源循環研究室 主任研究員の中島謙一博士です。中島博士は、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境システム学専攻 循環型社会創成学分野の教員を兼務されており、鉄やニッケルを含む資源の物質フロー・サプライチェーン分析等を通じて、持続可能な資源管理、資源利用の高度化・高効率化に関する研究に従事されています。セミナーでは「素材と社会:資源利用の変遷、創出される価値」と題して、社会における物質の使われ方や価値を生産者だけではなく消費者が再認識する必要性を挙げ、その認識こそが将来社会において資源の使い方の再構築につながる、とご説明されました。講演の中では、素材や素材産業が創出している社会的価値を整理して「見える化」するための実践的な手法や実際に遂行されているプロジェクトの紹介がありました。また今後の資源利用の展望にも触れ、不均一な資源利用の現状と国際的な資源分配の格差をデータを交えて分析し、持続可能な資源利用のあるべき姿を「どのような科学的目標を設定してどのような社会を描くか」と締めくくりました。

講演者:国立環境研究所 主任研究員
中島 謙一 博士
演題:素材と社会 - 資源利用の変遷、創出される価値

二人目の発表者は、ニッケル協会 ブリュッセル事務所 公共政策部門のマネージャーであり、ライフサイクル評価専門家のマーク・ミストリ―博士です。ミストリ―博士は、ライフサイクル・アセスメント (LCA)に関する学術的・科学的分野に自らの研究を通じて貢献するだけでなく、世界的な持続可能性に関する規格の開発と設定にも関わっています。ニッケル協会は本年、ニッケル含有製品(ニッケルメタル、フェロニッケル、硫酸ニッケル)に関するライフサイクルデータを公開しましたが、その中で近年登場したニッケル銑鉄のライフサイクルデータについても様々な角度から考察を行っています。ニッケルメタルやフェロニッケルに関しては、社会全体の環境への配慮や持続可能性への注目度が高まる中、関連各社は様々な改善努力を行うことで二酸化炭素排出量などの環境指数の改善に成功しています。一方で近年中国を中心に製造が拡大しているニッケル銑鉄については、環境への影響がニッケルメタルやフェロニッケルと比べると非常に大きいため、ステンレス鋼などを製造する際の原材料として使用すると最終製品の環境指数が悪化することが懸念されます。世界で環境保護の意識が高まる中、どのような原材料を使用するかといった経営判断が今後より一層重要となるであろう、と発表の中でミストリ―博士は警鐘を鳴らしました。

講演者:ニッケル協会 ブリュッセル事務所
公共政策部門 ライフサイクル専門家
マーク・ミストリ― 博士
演題:ライフサイクル評価とニッケル

二番目の発表者のマーク・ミストリ―博士の講演(日本語通訳付)については、アーカイブ講演映像を2021年3月末まで見逃し配信させていただきます。当協会HP(http://www.nickel-japan.com/)より視聴申し込みをしていただきますと、自動返信にてアーカイブ講演映像を視聴するためのURLとパスワードが通知されます。

今年度は資源利用や持続可能性をテーマに、特にニッケル含有製品のライフサイクルに焦点をあてたニッケル・オンライン・セミナーを開催いたしましたが、今後も当協会はニッケルや資源にまつわる情報を様々な観点から皆様にお届けすべくセミナーを開催して参ります。

閉式挨拶:ニッケル協会 ブリュッセル事務所
公共政策部門担当役員
ベロニク・スツーカーズ 博士
ニッケル・オンライン・セミナーの様子

尚、ご参考までに、時間の関係でセミナー中にお答えできなかった質問に関しては、以下に一問一答形式で講演者からの回答を掲載させていただきます。

質疑応答

【中島先生への質問】

<質問1>
生産者と消費者の価値の認識の違いについて。例えば、消費者は電気自動車(EV)を購入さえすれば二酸化炭素の削減により地球温暖化問題の解決に貢献できる、と信じていますが、生産者の立場からすると、リチウムイオン電池(LIB)用のニッケルを生産するには、鉱山を開発して鉱石に含まれるわずかなニッケル成分を製錬するために大量の鉱滓を廃棄せねばなりませんし、EVに使用されているLIBも耐用年数を迎えれば、中には再利用されるものもありますが、リサイクルされないものについては最終的には廃棄されることになります。ニッケルのみならず全般的な資源という意味で、社会全体(特に消費者)にライフサイクル的な観点というものが理解されていないように感じますがいかがでしょうか?

確かにライフサイクル的な視点が理解されていない、というのは危惧されるところです。同様に太陽光パネルの設置においても山を切り崩して設置するようなケースもあります。太陽光パネルを設置すれば直接的に温室効果ガスの削減に寄与する一方で、温室効果ガスの削減とは異なる視点でのリスクが潜んでいる可能性があります。当研究所での資源循環プロジェクトを進めていく中でも、太陽光パネルやEVが普及することで思わぬ他の問題が生じることがある、と分かってきています。例えば、太陽光パネルの設置のために植生豊かな土地を切り崩す、それによって生態系が壊されて多様性が失われるリスクがあるのです。したがってこれらのリスクを事前にきちんと把握して対策を講じておくことが必要となるでしょう。例えばニッケルの場合ですと、マダガスカルで取られているような生物多様性オフセットプログラム (Business and Biodiversity Offsets Program (BBOP)) 等がありますが、本当に社会にとって必要な資源については充分な対策を取って開発にあたることが重要と思います。そしてそのような議論を深めていくためにも、政策提案者や実務を担う方々に向けたLCA的な解析や情報発信が必要と考えます。

<質問2>
ニッケル含有ステンレス鋼製の水道配管や鉄筋が普及し、ステンレスの使用が日本国内で広まると、日本国全体で資源(ここではニッケル)のストック量が増すと考えられますが、「国ごとの資源のストック量が増えていく」というのは正にこのような状況のことを指すのでしょうか?

ストック量が増える、ということは、将来リサイクルによって使える二次資源が蓄積されている、ということを意味します。今後各国が資源の利用量を増やしていく中、すでに蓄積されている二次資源を有効利用しなければ、更なる資源開発と投入が必要になってきてしまします。したがって、各国が保有する二次資源を余すことなく再利用することが重要でしょう。ニッケルの中にはスラッジのように低品位でなかなか再利用が難しいものもありますが、このようなものも適切に管理していくことが重要です。現時点での技術で再利用が難しい場合でも将来は利用可能になる可能性があるわけですから、きちんと在庫して管理してゆく必要があるでしょう。

<質問3>
日本だけをみた場合、ニッケルのストック量はどれくらいでしょうか?また日本は今後人口が減少していくと言われる中で、追加的な資源投入は世界的に見て小さいのでしょうか?

2016年の場合、世界全体でのストック総量が約4千万トンであるのに対して、日本のストック量は約3百万トンと推計しています。

<質問4>
「社会蓄積量(ストック)」という言葉が何度も出てきましたが、ストックされている資源(金属)とは現在利用している自動車や電池や橋や家、そしてその廃材を示しているのでしょうか?もしくはすぐに新しい商品になるものを指しているのでしょうか?

社会蓄積(ストック)されている資源(メタル)とは、今正に社会で使われているものを指します。In-use stockと呼ばれるような、今現在走っている自動車に使われているものや、今座っているスチール製の椅子もそのひとつです。公共施設や橋に使われているワイヤーや鉄筋もストックと呼んでいます。また、Hibernating stock (冬眠ストック)と呼ばれるものもあります。例えば、家を建てる時に基礎部分にパイル材などが埋め込まれているのですが、家を取り壊して新しく新築する時には埋まっているもの全ては掘り出せないので、埋められたまま「冬眠」状態になっている資源もあるのですが、そのようなものまで含めてストックと呼んでいます。


【ミストリ―博士への質問】

<質問5>
講演資料の中では、2007年、2011年、2017年におけるクラス1ニッケルの地球温暖化係数 (GWP) の推移が示されています。将来技術やBAT(※)による削減の可能性についてもお伺いできますか?
※ Best Available Technology (BAT) とは、負荷・排出・廃棄物を一定限度以下に抑えるための実用的な特別の手段を利用したプロセス・設備・運転方法に関する最新の開発技術を指す。

In principle, when we talk about nickel metal or ferronickel, we can see a trend. We can see that companies are becoming more energy efficient. But to answer your question, is there any theoretical minimum values that we can achieve? It is not possible to answer the question as it depends on many different parameters. Having said that, we can also see there is still some room for improvement. NI’s Member companies are working on for further reducing their carbon footprint and becoming more energy efficient. For example, some of our Member companies are investing more into renewable energy. So they are supplying themselves with electricity from low carbon technologies. Of course, given that electricity is our major input of our production processes, so it has an impact. But the important thing is, that is why I have added slides on Nickel Pig Iron (NPI), to look at the full picture and to understand, for example, a company like Sumitomo Metal Mining is competing against the new products entering markets (such as NPI).

原則として、ニッケルメタルやフェロニッケルについては傾向が見られます。つまり関連企業がエネルギーの効率をより高めていることが見て取れるのです。ご質問は、人々が達成できる理論的最小値が存在するかという意味と思いますが、多くのパラメータが存在するので明確にお答えすることはできません。とはいいながら、まだまだ改善の余地があることも事実です。当協会の会員企業はカーボンフットプリントを更に削減するために尽力しており、その結果エネルギー効率が向上しています。例えば、当協会の会員企業の中には再生可能エネルギーに投資をより行っている企業もあります。つまり低炭素技術から電力を自給自足しているのです。電気は生産プロセスにおける主要なインプットですから、環境指数に影響があります。重要なのは、なぜ私がニッケル銑鉄に関する発表をしたかというと、私はニッケルのLCAにまつわる俯瞰図をお示ししたかったのです。例えば、住友金属鉱山のような日本企業はニッケル銑鉄のような(二酸化炭素排出量の多い)新規参入製品と競っているという事実を理解していただきたかったのです。

<質問6>
コバルトのカーボンフットプリントが極めて大きかったようですが、どの工程が大きく寄与しているかご存知でしたらお教えいただけますでしょうか?

The main contributors are refining which accounts for more than 50% and primary extraction which is roughly about 35%. But my recommendation would be to contact to Cobalt Institute which holds the data.

最も大きく寄与しているのは製錬過程で50%以上を占めています。一次抽出も約35%を占めます。ただし詳細データについてはコバルト協会へ問い合わせることをお薦めします。

<質問7>
クラス1のGWP算出において硫黄が大きな割合を占めるとのお話しでしたが、硫化鉱由来の硫黄や非鉄精錬の副産物としての硫酸を活用している場合の硫黄はどのように評価されていますか?

The sulfur is been main contributor to the nickel carbon footprint. We are following ISO standards and ISO requires us to use the Sulfur Carbon Footprint Data which are contained in the database. So we are not using sulfuric acid and sulfur which occurs as byproduct, for example from copper or even from nickel production.

硫黄はニッケルのカーボンフットプリントに大きく寄与しています。本調査研究はISO規格に基づいていますが、ISO規格はデータベースに収録されている「硫黄カーボン・フットプリント・データ」を使用するように求めています。従って例えば、本調査研究では銅やニッケル生産の過程で副産物として生成される硫黄や硫酸については取り扱っておりません。

<質問8>
NPIのGWP算出が2020年Publicationで150kg CO2/kgと算出とのことですが、詳しい計算根拠はありませんでしょうか?

We have used data from publications from 2015 to 2020. I recommend the person who asks this question to get in touch with me and I can share the publication with the person.

本調査研究においては、2015年から2020年に発表された調査研究のデータを用いています。質問8の質問者の方は、セミナー終了後にニッケル協会東京事務所経由で私に個別でご連絡をいただければ、使用した調査研究データを共有させていただきます。

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